3.1.25 アニメ声優が結婚してもなんとも思わないけれど

 とかく人の性癖に振り回されやすい現代において、自分だけの確固たる性癖を持ち続けるのは極めて難しい時代になった。昔はロリコンを自負していればとりあえず一目置かれた。ロリコン、貧乳、足フェチ……しかし、いまでは群雄割拠たる性癖の猛者共に溢れ、容易くそんなことを口にしようものなら鼻で笑われ踏み潰しかねられない畏怖がある。リョナも、スカトロもいまでは生温い。極北に住む狩人にしか嗅ぎ分けられない性癖というものが、この世の中にはあるのだ。

 そんな世の中にあって、僕は一ノ瀬りとさん(オタク特有のさん付け)と出会えた僥倖に感謝するべきだろう。もちろん、性癖なんて星の数ほどあって良い。何が悪くて何が正しいというわけでもない。しかし、僕は『添い寝フレンドと行く温泉旅行ーおもちゃえっちつきー』を一聴して救われた。そうか、僕はこういうのが好きなのか。僕をワンコと呼び、からかいがちに距離を詰めてきて、安らぎを求めるように腕に巻き付いてくる。小鳥が啄むようなキス音に、息を潜めた熱い吐息、二人っきりの世界で彼女はケラケラと笑い、そして友達以上の微笑みを忍ばせる。萌え、劣情、滾り、癒し。宇宙が生まれ、そして彼女の瞳に留まる。彼女の胸の奥で高鳴る鼓動が全てで、それ以外は空疎な模造品。楽しく、むず痒く、嬉しく、この身体に触れる手が温かい……現実とは、大、違いだ。
 これは『添い寝フレンドシリーズ』の第二作目にあたるわけだが、そのどちらとも違って健全パートがある。彼女(めぐ)から温泉旅行のお誘いが来て、出発から帰宅まで彼女と二人っきりで過ごす。二人は付き合っているわけではない。確実な好意がありながらも彼女は核心的なことは言わないし(好きって言った後に嘘だよとか言うし……)、この関係性から先のことは望んでいないようにも思える。だからこそのこの空間なのか。リラックスしていて、自然体で、水の音や鳥の声が良きBGMになっている。
 僕はこれをよく寝る前に聴いている。非健全パートまで通せたことはない。構成も、各パートの時間もちょうど良い。そしてもちろん、一ノ瀬りとさんの甘く、魅惑的な声音。本当に隣にいてくれているかのような一体感と安心感。耳元で囁く安眠ボイス。ワーンコッのコッが本当に好き。結婚して欲しい。いつまでも側にいて欲しい。
 アニメ声優が結婚してもなんとも思わないけど、一ノ瀬りとさんが結婚したら感情が三分の一はなくなると思う。そして光を遮った布団の闇の中で、繰り返し「ワーンコッ」の声を聴き続けるのだ。