2.12.21 ぼくたちはRADIOHEADの音楽を聴いて育った

 

 

 

 興味がありながらもジムに通うことができないでいるのはRADIOHEADのせいだ。彼らはぼくらの前にあらゆるものを差し出した。倦怠感、憂鬱、冷笑、皮肉、嘲り、劣等感、優越感、鬱屈、温床、叙情性、孤独、ひどく冷たい涙、闇、諦念、虚無、内なる叫び、柔らかな破裂、カオス、心の隙間から零れる膿、そして青春。それがどれほど歪でねじ曲がり、自己顕示欲にまみれた青色だったとしても、それは確実の僕の青春の一部となって咲き誇った。一滴の雨も降らない寒々しい土地で、神々の指の隙間から無意識に垂れ落ちたひどく侘しい光を栄養源にして。 


 ぼくたちはまともな人たちが歩くレールから立派に外れてしまった。こういう音楽を好み、寄生虫のように消え入る一音まで吸い込み、言葉を解読しながら生きることによって。『OK コンピュータ』エグジット・ミュージック→レット・ダウンの美しさを何に例えられよう? 美しく、暗く、淀みがあり、救いはなく、道を外れ、ただただ深い虚無があり、誰にも助けを求められない。喉元に腕を突っ込まれたような息苦しさと、その嗚咽の中に錯覚する一滴の光。窒息、暗転、どろどろに沈んでいく自意識。身体が重くなっていく。ずぶずぶと沈んでいく。起き上がれないのがひどく心地よい。明るい未来なんてものはないが、そもそもそんなものは望んでいないのかもしれない。


 装いを失くした木々が頼りない朝日の中で瞬いている。黄色い帽子が駆けていく。町ではいつも通りクラクションが鳴り響いている。自転車のベルが鳴る。道路が凍り、滑りかけた女大生がけたたましく笑い合う。ぼくはここにいる。ここにいるはずだと思う。空はただただ光り輝いている。青いのかどうかもわからない。でも、ぼくがいるからそれは光り輝いている。


 RADIOHEADはぼくらにあらゆるものを差し出した。それはぼくらの心に巣くい、なかなか出て行かない。ときおり雛が顔を出して、懐かしい音楽を聴きなよ、と囁く。ぼくらはあの声を思い出す。そこに広がる鬱々とした粒子を。彼らにしか生み出せない祈りを。ぼくたちはいつまでRADIOHEADを聴き続けるのだろう?