3.2.20 二日酔いと盗作

 

 

 気分は最悪。みっともない弱音を披露して、仕事を人質に取るような言い方をして退勤した。帰ってすぐ眠れそうにもなかったから、寒空の下を歩き回って酒を飲んでいた。二日酔い。死にたくなっているけど、まぁ、とりあえず生きている。


 窓の外をぼんやり眺めていた。何も考えられない。考えようとすると頭が痛くなった。いつも致死的なものに憧れている。希死想念。空は青い。2月にしては温かい方だ。冬服をベースにした春物のジャケットはチョイスがあっていない。少し寒い。


 僕にとってのヨルシカの1位は『だから僕は音楽を止めた』だった。それは『盗作』が発売されてからも動かなかった。確かに青い。でも、遠ざかる空の遙かな蒼の色だ。切なく、物悲しく、幼く、そしてどうしようもなく青かった。


 いつからか、『盗作』の方に心惹かれるようになった。初めはそれほどでもなかった。あまりにコンセプト・アルバム感が強かったし、ジャケットも微妙だった。ボーカルの声音におっ、となりはしたが、その頃の僕はあまりに『だから僕は音楽を止めた』に執着していた。気付かなかった。この音楽のあまりの美しさに。


 宝石箱のような美しさ。嫉妬や憎しみ、劣等感や心のあっけない移ろいさえも。これが音の美しさなのか、物語の美しさなのかはわからない。あふれ出した色とりどりの宝石がなだれ込むように心の脆い部分に入ってくる。溶け、爛れ、鮮烈な残滓なって消える。もう僕の中にはない何か。歳月の果てしなさや、社会の決まり事を呑み込んだことによって消えてしまった何か。これはそこを刺激する。きっとこんなに美しかったものなんだ。幻想かもしれない。でも、それは確かにぼくの心の中にもあったものだから。追悼くらいする権利はある。


 二日酔いは引かない。もう大分引き返せない。生活は続いていく。絶え間ない苦しみをくるんだまま。なりたくなかった自分を引き摺って、舗装されていない道に轍を刻んでいく。