2.12.28 僕の好きな音楽『怠惰と日々』

 

 

怠惰と日々

怠惰と日々

  • Transit My Youth
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 ブラック・コーヒーとソーサー。背景は黄色。解説のない俯瞰的一コマ。コーヒーの中にこじんまりと収まる『怠惰と日々』の文字がやけにしっくりとくる。


 ややこしいものは何もない。綺麗事は端から相手にはしていないが、基本的には前向きに生きようとしている。鬱屈した感情に縁がないわけではないが、それに取り込まれて身動きができなくなるほど暗くはない。喪失感に心を喰われているような日々を過ごしながらも、とりあえず声がある限りは歌を歌っている。あくまで気持ちよく歌詞を載せるようなシンプルなギター・コード。男女ボーカルの移り変わりが魅せる表現の景観。よく聴けばそれなりの悲しみやどうしようもないやるせなさが潜んでいるけれど、音楽の魔法が鳴っている最中には手放しの肯定感しかない。軽いわけではない。飛んでは落ち、飛んでは落ち……足下は泥に汚れながら、また飛ぶのをやめられない。


 僕にとってこの音楽はノーマルだ。一曲一曲に目を凝らせばテーブルに載せたくなるような言葉はある。ソングバードの『君に会いたいとか~』Good Luckの『数だけ増えてく煩悩~』とぁ怠惰と日々の『かじかむ2月の僕にちょうどいい~』とか……。でも、それら一つ一つの言葉を挙げていってもノーマルという言葉がやはり僕の感慨には収まりが良い。平凡というわけではないが――というより、その平凡さを抱えたバンドの音というのがものすごく心地良い。耳にすんなり入ってきて、指定の順路を辿って胸の奥に響き、そしてまた循環する。寒さが本格化してきた12月の始め、暖房を一段上げた車の車内で聴くと、やけにくるものがあった。過ぎ去ってしまった青春だったり、取りこぼしてきた過去だったり、すでに失ってしまった未来だったり……冷え切ったハンドルを掴んだ指が強張り、遠くに映る青信号がやけにぼやけて見えた。通勤ラッシュで渋滞する一車線。緩慢だろうが、僕たちはお行儀良くハンドルを踏み込まなくてはならない。でも、それだってノーマルだ。怠惰と日々を繰り返しながら、僕たちは日常を回っていくのだ。